Acts of Care

Acts of Care

カナカワニシアートオフィス合同会社は、2025年2月22日(土)から2025年4月26日(土)まで、KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY(西麻布)及びKANA KAWANISHI GALLERY(清澄白河)に於いて、3つの会期にまたがる展覧会『Acts of Care』を開催いたします。

本展は、カティ・キヴィネン(ヘルシンキ美術館主任学芸員)とピルッコ・シータリ(インディペンデントキュレーター/元ヘルシンキ現代美術館館長)の2名のキュレーターが、光州ビエンナーレ・フィンランド館(2024年秋)の為に企画した展覧会の日本巡回展を骨子としながら、アーティストによっては日本展のみの特別インスタレーションも実施し開催いたします。

フィンランドは北欧諸国で最も高齢化が進み、世界でも6番目に高齢化率が高い国ですが(2023年23.58%)、国連による世界幸福度報告書では7年連続一位(2018年以降)を獲得しています。対して日本は、もはや世界二位の高齢化率(2024年29.3%)を歩みながら、世界幸福度ランキングは常に最下位近辺(2024年51位)をさまよい、進みゆく高齢化社会のなかで幸せを実現していく姿勢において、非常に対照的です。

しかし子と親が互いに思いやり、属する集団のなかで役割を担いながら、日々を営み、命を繋げていく行為は、世界共通であるばかりか、すべての生物に共通している事象でもあります。ケアとは「人の成長を信じ、関心を持って関わること」であるとも言われますが、異常気象や情勢不安など、その必要性が今後ますます高まりゆく現代社会において、目前に横たわる現実と、想像力を喚起させるアートの営みは、いかに響き合うのでしょうか。

このたび韓国光州から東京への巡回を経て編み直されるフィンランド人アーティストたちの表現を、是非お見逃しなくご高覧頂けますと幸いです。

第一期では、KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYにて、2025年2月22日(土)よりマイヤ・タンミ個展『Octomom』を開催いたします。

本展で発表される《Octomom》は、「オーディオ・ストーリー」、「砂に投影されるプロジェクション」、「産後まもない新生児を抱く母の肖像写真」の三要素で構成されるインスタレーション作品です。科学者たちに「オクトマム」と名付けられた深海1,397メートルの母ダコは、53ヶ月間(4年7ヶ月)にも及ぶ長い期間に渡り卵を抱き続け、抱卵期間として世界最長記録となりました。

《Octomom》では、タコ、人間、そして時間が交錯します。このインスタレーションは、オクトマムの映像、タコの抱卵期についてのオーディオ・ストーリー、そして生まれたばかりの子を抱くアーティストの自画像が組み合わされています。研究者がオクトマムと名付けたこのタコ(グラネレドネ・ボレオパシフィカ/ホクヨウイボダコ)は、太平洋のモントレー渓谷で53ヶ月間卵を抱き続け、世界で最も長い抱卵期間を記録しました。モントレーベイ水族館研究所のロボット潜水艇は、合計18回オクトマムのもとを訪れ、作品にはロボットが撮影した映像も含まれています。

マイヤ・タンミは、1985年ヘルシンキ生まれ、アールト大学(ヘルシンキ)博士課程修了。あらゆる観点から「物事の真相」に迫るべく、科学者や他のアーティストたちとコラボレーションを行い、鑑賞者が驚きを持って物事に対峙し、感情を掻き立てる作品を制作するアーティスト。弊廊での個展は2017年に開催の『白兎熱 / White Rabbit Fever 』以来8年振りになります。

マイヤ・タンミは近作で、私たちがどのように感情を学び、どのように感情を理解するかを探求してきました。私たちは「タコになる」ことがどのようなものかを実際に体感することはできませんが、想像を膨らませることはできます。他の種に対する感情を理解しようと試み、それを発展させることもできます。《Octomom》は、「母性の経験」を他の種の生物との共有の試みを通して、共感とは何かを私たちに問いかけるのです。

 

 

第二会期では、 KANA KAWANISHI GALLERYにて、2025年3月22日(土)よりヘルッタ・キイスキ個展

『Acts of Care: Plasticenta』を開催いたします。

 

展覧会のタイトルに冠された『Plasticenta(プラスチセンタ)』 は、ヒト胎盤からマイクロプラスチック粒子が発見されたという新たな研究から着想を得ており、胎盤から抽出されるエキスである「プラセンタ」と「プラスチック」を組み合わせた造語です。写真を用いたミクストメディア・インスタレーションで知られるキイスキの作品は、地球との複雑な関係や、他の種や環境との共存のあり方をテーマにおいています。

Plasticenta」は地球上のあらゆる生命体が互いに調和しながら混ざり合い、既存のヒエラルキーを変容させながら、種間の新たな同盟関係を夢見る、もうひとつの未来を想像している。作品は、人間と非人間、有機物と無機物、生物と無生物の新たな親和性を描いている。

(NOON Projects(ロサンゼルス・アメリカ)『Plasticenta』展リリーステキストより抜粋)

キイスキは、10年以上に渡り2人の娘と姪と共同で作品を制作していますが、写真シリーズ〈Plasticenta〉と映像作品《Hydra》も、娘たちと共同制作でつくられました。「2人の少女の愛と友情、そして離島で発見された不死のポリプ『ヒドラ』との関係を探求する」という映像作品《Hydra》は、フィンランドのインディーシーンを代表する音楽家LAU NAUが音楽を担当し、抽象と具象のあわいで鑑賞者の想像力を喚起するかのようです。また本展では、キイスキが東京滞在中にみつけたテキスタイルを用いたサイトスペシフィックなインスタレーションも予定しています。

ヘルッタ・キイスキの作品は、人間と非人間的なもの、有機的なものと無機的なものとの新たな親和性を夢想し、既存のヒエラルキーを変容させる。写真、映像、テキスタイル、インスタレーションは、魔術的、神話的、秘教的な側面を持つ若さと愛の枠組みの中に存在する。若さそのもののように、キイスキの作品は白昼夢と不安の間の不安定な状態にある。彼女の作品の多くは、愛犬や娘たちとの共同作業によって生み出されている。


フィンランド・トゥルク在住。ヘルシンキ芸術大学で修士号(2015年)、トゥルク芸術アカデミーで写真学士号(2012年)を取得。ヘルシンキ現代美術館(フィンランド、2024年)、NOON Projects(アメリカ、2023年)、SEA Foundation(ネバダ州、2023年)、ハフナルボルグ美術館(アイルランド、2020年)、フィンランド写真美術館(フィンランド、2019年)など世界各国で作品を発表。ケーラー社(ドイツ)より3冊の作品集を上梓。

 

 

 

 

第三会期では、 KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYにて、2025年4月6日(土)よりナヤブ・イクラムと サンプサ・ヴィルカヤルヴィの二人展『Acts of Care: Families』を開催いたします。

ナヤブ・ノール・イクラム(Nayab Noor Ikram)は、フィンランドを拠点に活動するビジュアル・アーティスト。オーランド諸島(6,500を超える島々からなるフィンランドの自治領/住民のほとんどはスウェーデン系)出身のパキスタンのディアスポラ(「移民」「植民」を意味する思想用語。ギリシャ語のディア(分散する)とスピロ(種をまく)を語源とする。出典:artscape)でもあります。写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションなどの作品を手がけ、儀式や象徴を通して、中間的であるということ(in-betweenship)、文化的アイデンティティ、記憶などの概念を探求しているアーティストです。

本展で発表する映像《The Family》は、アーティストとその家族によるパフォーマンスの記録です。美しく暮れゆく夕陽を背景に、母親がアーティストの髪を儀式的に洗ってゆきますが、伸びやかな声が幼少期の呼び声のような懐かしさを喚起させ、鑑賞者ひとりひとりのルーツに染み込んでゆくかのようでありながら、実は即興的であるという仕掛けによって、家族の個々に横たわる緊張感や感情や記憶をも炙り出すコミュニケーションとしても機能しており、伝統や儀式の創造や継承についても思考させられます。

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もうひとりのアーティスト、サンプサ・ヴィルカヤルヴィ(Sampsa Virkajärvi)は、時間と変化と社会、そして個人の選択とその不可能性に興味を持つビジュアルアーティスト/ドキュメンタリー映画監督。本展では2点の映像作品を展示いたします。

《What Remains?》では、自宅で認知症を患うアーティストの実母の晩年を描き、病気が進行するにつれて時間と場所が変化していく様子を描いています。いくつもの家で同時に暮らす彼女。老いた人とその介護者が遭遇する、記憶の喪失、視覚の弱体化、理解力の低下にまつわる困難の一端を描きだすことを試みる作品でもあります。

《With You》は、かつてはパイロットとして一家を大黒柱として支えていた尊敬する実父が、最晩年にはほぼ一日を寝て過ごす様子を克明に描いており、息を引き取るその日までの父と息子の物語をまとめたノンフィクションです。育った時代も、就いた職業も、性格さえも正反対であった父に対して、時には葛藤をかかえながらも深い敬愛を抱き続けた作者である息子が語る、「あなたの生きた80年で、僕たちが一緒に過ごしたわずか18年は、短すぎました」という言葉が光ります。

本展示は、欧州連合(EU)の資金援助による「pARTir initiative」プロジェクト(NextGenerationEU)の一環として、フィンランドセンターが後援しています。